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特集記事アーカイヴ Issue 2003.9-10

自費出版とそうじゃない出版

text: 豊原エス Esu Toyohara

こんにちは、豊原エスです。今日は私が体験した自費出版とそうじゃない出版についてお話しましょう。

私は今までに『セルフヘルプ』『うた』『ホイッスル』という3種類の詩集を自費で出版しましたが、どの本も出版の際にとんでもない額のお金がかかってしまいました。びっくり。1冊あたりの単価を下げようと500とか1000とかまとまった数にするからトータルの金額がえらいことになるんですね。部屋に在庫がぎっしりで足を伸ばして寝れないッス。そんな京都市左京区四畳半。

今思えば一番最初の自費出版『セルフヘルプ』は工夫次第でもう少し安く出来たのかも知れません。無駄が多くて変に豪華。

まぁ最初は知識がないから仕方がありませんね。情報収集によるコストダウンよりも精神的なタイミングを選んだようなものです。それに流通に頼らず自分で書店へ委託販売の依頼に行くような場合、あまり初めからチープなものを作らない方がいいようですから結果的にはお金をかけて良かったようです。いくら中身で勝負と言っても、フリーペーパーに値段がついたような感じのものではその見た目だけでなかなか書店には取り扱ってもらえません。何とか一度書店で取り扱ってもらって、それが売れたら「新しいのが出来たら次も持ってきていいよ」となるわけです。なかなか険しい道のりです。

因みに『セルフヘルプ』の場合は500冊の詩集(文庫本サイズ148ぺ−ジ)を50万円かけて作り、その原価1000円の本を300円という謎の定価で販売しました。「岩波文庫がこの値段で角川文庫がこの値段なら、私の本は300円にしよう〜」と考えたのです。自費出版というのはそういうとこと比べるもんではないと過去の自分に伝えに行きたいです。しかし幸か不幸かその勘違いした値段のおかげで『セルフヘルプ』は完売し、信頼できる書店さんとも沢山知り合うことが出来ました。なんて運のいい勘違いでしょう。

その後の自費出版詩集『うた』『ホイッスル』は出来るだけ原価を押さえて出来るだけ沢山の数を出来るだけ早くに売りました。で、ちょい赤字くらいで完売した頃とち狂って増刷。版下が保存されていて安く作れるとかそういうシステムではないのになぜか増刷。

「えー、もう売り切れなんですか? すごく欲しかったのに…」というカワイ娘ちゃん達の声に応えて増刷。そして再び地獄の営業ロード。そんなことを5年も6年もやっていたら地元の出版社が声を掛けてくれました。京都に事務所を構える「青幻舎」です。実はずっと気に入っていた出版社だったので、出版の話がきた時はそれはそれは嬉しかったのです。

さて、ここからは「そうじゃない出版」の方の話です。自費の場合はどれだけお金をかけて作ろうがその本が売れようが売れまいが、誰にも迷惑はかかりません。ですが「そうじゃない出版」の場合はそうじゃないのです。なんたって制作費を出してもらっているんですから。自分の創った作品がその出版社のイメージの一部を担う事を考えると、「売れれば何でもいい」という節操の無い作品も作れません。もともと自分の作品なのですから「どうでもいい作品」なんて作るわけもないですが。蛇足ですけど「売れれば何でもいい作品」て売れませんよね。

ところで一般的に考えて、何とか「そうじゃない出版」にこぎつけたある程度の力と勢いがある新人さんに欠けているものとは一体何でしょう? 私が考えるにそれはおそらく「客観的な視点」です。「よく売れて、なおかつ存在が残る素晴らしいものを創る」。その確率を上げるには客観的な視点を持ってシビアな意見を出してくれる人がどうしても必要になってくるのです。これは新人さんの情熱だけではなかなか難しいものです。

「そうじゃない出版」の本を作る際には、客観視担当の人以外にも是非居て欲しい人達がいます。詩集は詩が宙に浮いているわけではないので詩を紙に載せなければいけません。そうするとレイアウトやイメージにあった紙選びが重要になってきて、ブックデザインをしてくれる人が必要になります。そしてそれらの構想を現実にするにはお金がかかりますから、その予算のバランスや限界などを計算してくれる人も必要になってきます。出来上がってからのことも考えると宣伝をしてくれる人というのもとてもとても重要です。自費出版では一人で作品を創ることも可能ですが、「そうじゃない出版」ではあれやこれやで必ず何人かのチームになって作品を創ることになるのです。すべては沢山の読者のハートを高い確率で射止める為です。

制作チームにどんな人が集まるか、それは運次第です。一人で考えるより二人の方が、二人で考えるより三人の方が広がりを持ってくるようならそれは素晴らしいチームと言えるでしょう。見ず知らずの神様からの目に見えない贈り物、運命という名のありがたい偶然です。しかし信頼し合えない人と一緒になってしまったりするとこれはもう大変です。話し合うたびに何もかもが遠のいて、自分ばかりが譲歩しているような気になってきます。頭数の分だけ自分が薄まっていくことでしょう。最悪。今更辞めたいなんて言えない。でもこういったケースも実際は少なくないのだと思います。幸いなことに私は頼れるべっぴんバンマスのもとに信頼できる小さな集団を形成する事が出来ました。良かった。やっぱり初めてですしね、制作工程も理解出来ていませんしね、本当に何よりでした。

私の初めての「そうじゃない出版」は『歌いながら生きていく』という詩画集です。青幻舎刊。ある箇所ではぐいぐい引っ張ってもらい別の所では我儘を通させてもらい、何が何だか知らないうちに予想以上のものに仕上がったという一品です。制作期間は約半年。作者の名前としては豊原エスと足田メロウ(『うた』から一緒に活動している相方の絵描きさん)しか載っていませんが、この詩画集は本当はもっと沢山の人で創ったのです。その人達の名前が記されていないのがとても不思議な気がします。時々音楽や映画でも作品のあとにスペシャルサンクスを山程載せる人がいますがきっとこんな気持ちなのでしょう。でも自分と自分のまわりを形成するもの全部に感謝したい時は一体なんと記せば良いのでしょうか。

制作中も感じていた事ですが、出来上がった『歌いながら生きていく』を見てあらためて思ったのは、「自費出版」と「そうじゃない出版」とではやはり全然違うのだなということでした。金銭的なことではありません。自費出版は「完全に自分の考えだけで創る本」で、そうじゃない出版は「複数の人間で可能性を広げつつ創る本」なのです。根本的に違うのです。自費出版で本を出す人は「自分の考えだけで本を創る人」であって、「そうじゃない出版ができない人」ではありません。私はずっとそうだと思い込んでいたのですが。自費出版と「そうじゃない出版」の決定的な違いというのは金銭的なことや流通の規模でなく、制作の仕方にあるのでした。

私は今後「自費出版」と「そうじゃない出版」を並行して進めていきたいと考えています。足田君と二人でそりゃどうなんだいということも続けていきたいし、その道のベテランさんに手伝って貰って思い掛けない方向に成長するのも嬉しいことです。自費出版の延長上に「そうじゃない出版」があるのではなく、自費には自費の未来が「そうじゃない」には「そうじゃない」の未来があれば、あんな事も出来てこんな事も出来てきっと楽しいかろうと思うのです。それで読む人も楽しいとなれば言う事なしなんですが、どうでしょう。


豊原エス Esu Toyohara
大阪出身京都在住。詩人。1973年生まれでとうとう30才になってしまいました。著書は『セルフヘルプ』『うた』『ホイッスル』『歌いながら生きていく』など。
http://kyoto.cool.ne.jp/esu/


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